「ウェロニカ・ペルシカ」が描く”武蔵野ジオ・キュイジーヌ”の完成形—“地産地消×地質学”のフルコース!
前編で紹介した水・茶・森・菌・畑・山・川の“地層を食べる”序章に続き、ここからはウェロニカ・ペルシカの13,000円コースが本格的に深度を増していく。
魚料理、肉料理、リゾット、デザートへと進むにつれて、武蔵野の風土と1500万年前の地質の記憶がより立体的に皿の上に現れてくる。
【魚料理:甲斐サーモンレッド/山野草】
多摩川源流・小菅川で育つ甲斐サーモンレッド(ニジマス)を低温調理し、しっとりとした質感を引き出した一皿。

上には葱のように見えるフェンネル、ソースにも同じフェンネルを使用し、香りのレイヤーを重ねている。
さらに野生のオランダガラシ(クレソン)、たけのこ白菜の中にはホタテを忍ばせる。
横田シェフは「ホタテは埼玉に関係ないと思うかもしれませんが、1500〜1700年前までこの辺りは海の底でした」と語る。
実際に秩父で採取されたカニの爪の化石を見せながら、貝が堆積した地層が隆起して武甲山となり、その地層を通る水が“軟水だがカルシウムを含む”という土地の特徴を生むことを説明してくれた。

この料理に合わせるのは、かぶせ茶(品種:やぶきた)

黒い覆いをかけて旨味成分を蓄えた茶葉は、磯のような青い香りと、とろりとした甘みを帯び、かつて海だった武蔵野の記憶と響き合う。
【肉料理:夢味牛/飯能の炭/栗原養鶏の卵/旬野菜】
メインは入間市・中村牧場のブランド牛「夢味牛」。

黒毛和牛とホルスタインを掛け合わせ、赤身に旨味が凝縮するが、飼育が難しく生産量が極めて少ないため市場にはほとんど出回らない希少な牛だ。
これを飯能の炭で香ばしく焼き上げ、HITOSAJIYAの塩漬け生胡椒を添える。

赤ワインソースに加え、地元・栗原養鶏の卵を使ったソースがまろやかさを加え、蕪の上には狭山市のシャルキュトリー・モエが作るラルド(豚脂の生ハム)。
仕上げに鴻巣市のマイクロリーフを散らし、武蔵野の“今”を象徴する皿に仕上げている。
ペアリングは、コース冒頭で飲んだ手摘み茶の水出し。

濃厚な旨味を持ちながら、肉の余韻を邪魔しない柔らかさがある。
【リゾット:彩のきずな/青梅の青かびチーズ】
川越産の米「彩のきずな」を使ったリゾットに、青梅の野生青かびチーズを合わせた一皿。

上にはレザーウッドの花の蜂蜜を少量のせ、青かびの力強さに丸みを与えている。
合わせるお茶は、前半で登場した「ふくみどり」の紅茶。

焼き芋を思わせる丸い香りが、チーズの発酵香と心地よく重なる。
【デザート:イタドリ/地の柑橘】
野草・イタドリを使ったタルトは茎の筋を取り、甘く煮ることで甘酸っぱいジャムのような味わいに。

上には発酵クリーム、地元の甘夏のソース、ムラサキカタバミの花や葉を飾り、森の春の芽吹きを思わせる仕上がりに。
【お茶菓子:狭山抹茶】
お茶の木に活けたホワイトチョコレートと、狭山抹茶の生キャラメル。

ホワイトチョコの優しい甘さと、抹茶のほろ苦さのコントラストが心地良く、最後まで“地元の茶”が物語を締めてくれるコース全体の流れが素晴らしかった。
【武蔵野で“地層を食べるレストラン”をつくるということ】
『冊子に書いてある通りのことをずっとやってきて、それがやっと一つにまとまって形になったという感じです。今年ようやく根付いたという実感があります。
このエリアの土地は、歴史的に“何かが揃っている場所”ではないし、海も山も近くにあるわけではなく、戦国武将の城跡があるような観光地でもない。
何にもないところでレストランをやるのは大変でした。でも、だからこそ地元を知れるし、住んでいる人がもっと地元を好きになるきっかけになる。ほとんどの人にとって“新しい発見”がある場所になるんです。』そう横田シェフは語る。
店の建物は、シェフの祖母が暮らしていた家を改装したもの。

『庭には祖母が植えたどんぐりの木や柿、蝋梅、かりんがあって、ここで育った記憶も料理の一部なんです。
18年前の開業時は築40年ほどだった建物を、今回のリニューアルで天井・サッシ・断熱・厨房を全面的に整えた。
料理に集中できる環境を作りたかったんです。3組限定で一斉スタートという形も、今の時代だから理解されるようになった。やっと時代とやりたいことが一致してきた感じですね』…
そう思いのたけを語るシェフの笑顔が印象的だった。
魚料理では“かつて海だった武蔵野”を、肉料理では“今の武蔵野の生産者”を、リゾットとデザートでは“発酵と野草の文化”を描き、コースは地層のように積み重なっていく。
ウェロニカ・ペルシカは、単なる地産地消ではなく、「土地の記憶を食べる」という新しいフレンチの形を提示するレストランだ。

武蔵野ジオ・キュイジーヌという新概念を掲げるヴェロニカ・ペルシカは、古秩父湾の地層、狭山茶、山野草、地元生産者の営みを縦横に編み込み、土地の”時間”と”風土”を可視化するレストランだ。
クラッシックフレンチの精度で風景を皿に落とし込むコースは、地域ガストロノミーの新たな指標となり得る。
食を通じて武蔵野の物語を再発見する体験がここにある。
ウェロニカ・ペルシカ(Veronica Persica)
埼玉県入間市野田653
04-2932-6006
11:45~15:00
18:15~22:00
武蔵野ジオ・キュイジーヌフルコース:13,000円~
ワインペアリング:8,800円~
狭山茶ペアリング:8,800円~