西武池袋線・仏子の隠れ家フレンチ「ウェロニカ・ペルシカ」——“武蔵野ジオ・キュイジーヌ”で紡ぐ半径30kmのテロワールと1500万年の地層を味わうフルコース!

埼玉県入間市に位置する西武池袋線「仏子駅」から徒歩15分、住宅街を抜けて森の気配が濃くなるあたりにひっそりと佇むフランス料理店「ウェロニカ・ペルシカ」。

 

ウェロニカ・ペルシカ

 

 

2026年6月1日、創業18周年を迎えたこの店は客席を3テーブル・最大12席にまで絞り込み、空間・料理・体験のすべてを再構築した。

 

新たなコンセプトは「武蔵野ジオ・キュイジーヌ(Musashino Geo-Cuisine)」。

 

半径30km圏内の生産者・風土・文化(横軸)と、1500万年前にこの地が海だったという地質の記憶(縦軸)を、正統派フレンチの技法で皿に落とし込む。

 

 

わざわざ行く価値のある“デスティネーションレストラン”としての存在意義をより強く提示する再出発になる。

 

 

 

【オーナーシェフ・横田哲也が描く「地層を食べるフレンチ」】

 

オーナーシェフ横田哲也は、クラシックフレンチを軸にしながら、土地の歴史・文化・菌・記憶を料理に織り込む独自のアプローチを続けてきた人物。

 

「地産地消」という言葉が一般化する以前から、飯能・入間・日高・秩父といった武蔵野エリアの生産者と向き合い、食材の背景まで皿に乗せてきた。

 

今回のリニューアルでその思想はさらに深化し、「地層・菌・風土・記憶」をキーワードに、料理は“物語”として立ち上がる。

 

 

【マダム横田英理子——狭山茶を軸にしたノンアルコールペアリング】

 

もう一つの大きな魅力が、マダムであり日本茶インストラクターの横田英理子によるノンアルコールペアリング。

 

地元・狭山茶を中心に、品種・製法・抽出温度・時間を緻密に組み立て、ワインペアリングに匹敵する奥行きを生み出す。

 

今回のコースは「香りの繊細さを最大限に感じるための“茶の導入”」から始まる点が特徴的だ。

 

オーナーシェフ横田哲也氏とマダム•横田英理子氏

 

 

【コース開始:芦ヶ久保の湧き水で“舌の地ならし”】

 

最初に供されるのは、料理でも茶でもなく、秩父山系・芦ヶ久保の湧き水。

 

 

創業250年の老舗「大西園製茶工場」が手もみ茶を仕上げる際にも使われる名水で、「まずはお口をクリアにして、これからの香りを正確に感じてください」というマダムの言葉とともに味覚の準備が始まる。

 

 

【一服目:大西園の手もみ茶——旨味の極致を50℃で絞り出す】

 

全国手もみ茶品評会で何度も一等一席に輝き、“永世茶聖”の称号を持つ茶師が作る手もみ茶。

 

 

抽出は茶葉3g、湯量25cc、温度50℃、抽出2分。

 

急須を使わず“絞り出し”で旨味を最大化する。

 

収穫3週間前に黒布で覆い、渋みを抑え旨味成分テアニンを残すことで、青々しさではなく「旨味の出汁」と呼ぶべき濃密さが生まれる。

 

 

口の中で転がすと舌の部位ごとに旨味が立ち上がり、お茶の概念が変わる一杯だ。

 

 

 

【ひとくちのお楽しみ:杉のチュイルとジビエのリエット】

 

飯能特産の西川材をイメージした杉のチュイルに、地元ジビエのリエットと新芽をのせたアミューズ。

 

「倒木した杉の皮」を模した造形は、まさに武蔵野の森の記憶を象徴する。

 

 

 

【食材の哲学:菌・発酵・風土を皿に織り込む“ジオ・キュイジーヌ”】

 

横田シェフの料理は、単なる地産地消ではなく「土地に住む菌」を積極的に取り込み、発酵のニュアンスを皿に重ねるのが特徴的。

 

 

土着の菌を組み込んだり、あるいはその土地の歴史や文化アイデンティティ、それからその人々の記憶などをこれらに紡いで、それをお伝えしていこうという取り組みを「ジオ•キュイジーヌ」と名付けている。

 

食材に関しては坂戸にある「セラーノ」の生ハムは、豚のもも肉を生のままの塩漬けにした後、2年吊るして“土地の菌”で熟成させている逸品があったり、自家製の酵母を使用したパンを焼き、パンドカンパーニュやミルクパンを提供している。

 

パンに関してはその時の旬の野菜や果物を発酵させていて、来訪時の6月初旬は地元の甘夏、入間ごぼう、ジャガイモ、人参、川越のお米などが旬の時期で、ママレードみたいな香りやごぼうの香ばしい香りなどが特徴的だ。

 

スパイスは飯能の「シーズニングラボ」が調合。

 

 

パンに合わせるバターには日高市の弓削田醤油さんの醤油もろみを入れていたり、オリーブオイルにはシーズニングラボのスパイスを入れてパンとともに味わう。

 

この辺りは江戸時代から山の木を炭にして江戸へ運んで生計を立てていた歴史があり、飯能の方で炭を焼いている場所があるのでその炭で地元のブランド牛を炭焼きに。

 

みりんについては焼酎などの蒸留酒で作るものが一般的ですが、唯一日本酒と米麹で作られている狭山市の「母の味」というみりんを使用している。

 

熱に強い日本酒をベースにしているので、煮物の味がより深く染み込んだり、肉や魚の匂い消しに抜群な効果があったりするそうだ。

 

まだまだこだわりの食材や調味料の話しは尽きない。

 

 

【一前菜:武蔵野の山野をヒノキの切り株にのせて】

 

生ハム、入間味噌の揚げパン、天覧山の酒粕入りポンデケージョ

 

ヒノキの切り株を器に見立てた前菜盛り合わせ。

 

武蔵野の山野の風景を地元のヒノキの切り株で表現した前菜は、生ハムには入間のお味噌を練りこんだ揚げパンを差して一緒に味わう形に。

 

飯能の地酒天覧山の酒粕を練り込んで焼いたポンデケージョの中には土地の自然の菌によって作られたフルム・ドーメというチーズをクリーム状にして詰めたりと、土地のもの同士を組み合わせた前菜がとても印象的。

 

 

こちらはライスペーパーを薄揚げにして、所沢のうずらのお肉のコンフィや川越のお米のライスサラダを包み込むように仕上げた1品。

 

上には自然農園のマローのお花やタイム、山で摘んだ木の芽(山椒)、それからピンクペッパーなどが飾られる。

 

日高のギリシャヨーグルトムースと千石黒大豆のピクルス。

 

 

ガラス器は「谷田の泉」をイメージし、天然水ゼリーが地層のように揺れる。

 

下のゼリーは天然水を海水と同じ塩分濃度にし、真ん中には日高市のギリシャヨーグルトのムース、上には千石黒大豆のピクルスをのせて自然農園の菜の花や矢車菊、サラダバーネットやルッコラの花で華やかに。

 

ペアリングはお茶を摘んだ後に6時間ほど木漏れ日が当たるような場所に干し、萎凋させた狭山芳紅茶をシャンパーニュスタイルで。

 

 

茶葉はさやまかおりと言って埼玉県で産まれた「さやまかおり」という品種の茶葉を使い、寒さに耐えられる厚みのある味わいが特徴的で、萎凋させたことでジャスミンのような華やかな香りが生まれるそう。

 

 

【第一の前菜:三芳町の蕎麦粉パンケーキと畑の花々】

 

三芳町の蕎麦粉×自家製酵母のパンケーキに、そら豆・新玉ねぎ・山東菜・ニンニクの芽、ブラウンフェンネルやムラサキカタバミの花を散らした一皿。

 

 

ヤマメのアンチョビソースと青梅のモッツァレラのクリームがアクセントの料理のペアリングには、青々しい香りが特徴の「ふくみどり」を合わせて。

 

 

埼玉県産茶葉の品種「ふくみどり」は、ふくよかでまろやかなお茶なのでその名の通りフレッシュな緑の青々しい野菜と合わせて。

 

 

【第二の前菜:日の出町の鮑×飯能ジビエのパテ・アン・クルート】

 

鹿・猪のパテ・アン・クルートに、鮑を仏手柑のコンソメ・棗・クコの実で炊いたものを合わせ、煮こごりで閉じ込めた重層的な前菜。

 

 

付け合わせは安納芋×マジョラム、鮑肝の赤ワイン煮+野生チドメグサ、ビーツと野生イチゴのピューレ+桑の実。

 

 

ペアリングは茎だけを低温焙煎した棒ほうじ。

 

 

茶葉ではなく、茎の部分だけを集め低温でゆっくりほうじることで、木が持つ甘みが黒糖を思わせるような香ばしい感じになり、煮こごりの甘い香りと相性がとても良い。

 

 

【スープ:小菅の源流ヤマメ×生ハムのコンソメ】

 

山梨県小菅村の源流ヤマメをカリッと焼き、新じゃがと合わせたスープ。

 

 

底には生ハムの骨から引いたコンソメと枝豆が敷き詰められ、ヤマメの骨が持つ“磯の香り”を引き立てるため、仕上げに海苔を添えている。

 

 

箸休めのきゅうりの塩もみ×新生姜のコンフィ×ディルシードが心地良く口内をリセットさせ、新たな物語への橋渡しをする役目に。

 

ここまでで提供されたのは、水・茶・森・菌・畑・山・川。

 

武蔵野の地層を、香りと温度と発酵で読み解くような前半戦だった。

 

後編では魚料理、肉料理、麺・米料理、デセール、食後茶へと続き、「武蔵野ジオ・キュイジーヌ」の世界観がさらに深まっていく。